プルシェンコのソチでの戦いを占う

氷上の帝王 復活なるか

賢者達は、一般人とマスコミが立ち入る事の出来ない部屋に集まり、席に着いた。決断の時が来た。

 外界では、信者達が熱心に発表を待っていた。発表は、コンクラーヴェ(教皇選挙)の白い煙ではなく、信頼できる情報提供者が記者に語った一言だった。「プルシェンコ」

 ハベムス・アスレタム:「私達はアスリートを得ました」(訳注:ラテン語のハベムス・パパム:「私達は教皇を得ました」をもじったもの)。

 こうして、近年のスポーツ界で最も長く、激しく、不思議なバトルが終わった。勝者は男子フィギュアスケートでロシア代表としてソチ五輪へ行く。

 この権利を勝ち取ったのは3回のオリンピック大会を経験したベテランのエフゲニー・プルシェンコだ。一ヶ月前、彼には希望がなさそうに見えたが、彼は怪我と若いライバルと戦い、出場権を獲得した。

 

選考の紆余曲折 

 一ヶ月前、初々しいマキシム・コフトゥンがプルシェンコを超えて、ロシア選手権で優勝した。過去16年間、先輩のプルシェンコがこの大会で優勝しなかった事はなかった。その後、プルシェンコは「若く、有望なアスリートに譲ります」と言い、コフトゥンにオリンピック出場権を譲る事を示唆した。

 一週間前、再び状況が一転した。プルシェンコが休んでいる間、コフトゥンはハンガリーで開催されたヨーロッパ選手権に行き、オリンピックの候補であるというプレッシャーに耐えられず度々転倒し、結局5位で終わった。大会後、コフトゥンは容赦ないオリンピック出場権をめぐる戦いが失敗の原因だと言った。「滑る時、僕が失敗する度に喜ぶ人がいる事を知っている」。彼はこう語った。

 プルシェンコはモスクワ郊外のスケート場で行なわれたテストに呼び出され、本人によると、見事な滑りだった。確かに彼のパフォーマンスは素晴らしく、2時間以内に、関係者はプルシェンコがソチに行くだろう、と言い始めた。

「ミスなく、全ての要素をこなしました」と彼はロシア通信に言った。「全て順調です。私は満足しています、チームも満足しています、我々はよくやった」

 

カムバックまでの苦難 

 今回の好転は、プルシェンコの劇的なカムバックの一章に過ぎない。復活物語は4年前のバンクーバー五輪まで遡る。

 紛れもなく史上最高のフィギュアスケート選手の一人であるプルシェンコは2002年オリンピックで銀メダル、2006年に金メダル、そしてバンクーバー大 会では再び銀メダルだった。この時金メダルはアメリカのエヴァン・ライサチェクに持って行かれたが、本人はこれを不服とし、抗議した。

 その後、不運が続いた。スター選手のプルシェンコは国際スケート連盟の承認を受けずにアイスショーに参加したため、アマチュア競技会出場資格を停止され、その後は怪我が度重なった。2012年にはヨーロッパ選手権で7度目の優勝を果たし、復活したかの様に見えたが、翌年同選手権の公式練習中に背中から転倒し、優勝を逃した。

もっと読む:

ソチの希望の星たち

 2013年のほとんどをリハビリに費やしたプルシェンコのオリンピック出場の夢は、消えたかのように見えた。加えて、ロシアのテレビ・コメンテーターに背中の怪我は仮病だと言われ、数ヶ月に及ぶ泥沼の裁判になった。

 しかし、それから復帰が始まった。まずは、注目度の低いラトヴィアの大会で優勝した。他の参加者のレベルは高くなかったが、復帰への第一歩だった。しかし 再び怪我をし、モスクワ・グランプリには参加できず、コフトゥンはそこで銀メダルを獲得し、プルシェンコに希望はないかのように見えた。そしてロシア選手 権でプルシェンコは若い挑戦者に負けた。

 裏では、ロシアのフィギュアスケート界の事情に詳しい人々がマスコミに様々なデマを流していた。コフトゥンには決意が足りないと言う者もいれば、プルシェンコは年老いて役に立たないと言う者もいた。

 そして先週、コフトゥンがハンガリーで失敗し、プルシェンコがテストに呼び出された。残るは冬季オリンピックだ。

 

最終章は大団円となるか 

 この物語で、宗教との類似点は数多い。プルシェンコは祖国に戻ってきた放蕩息子か。死者から復活したラザロか。それとも解脱の境地に近い復活か。

 彼の名前が出てくるとツイッターが盛り上がる所を見ると、フィギュアスケートの狂信的なファンにとってプルシェンコは教祖の様なものだ。

 もしかしたら彼の物語はより深いものを示唆しているのかもしれない。スポーツはかつて宗教がそうであった様に、人々を麻痺させるものであるとすれば、プル シェンコのめまぐるしい軌跡は現代の聖書の役割を担うとも言える。宗教に信者が必要なのと同様に、スポーツには観客が必要であり、両者には理解し難い儀式 が数えきれない程あるため、この二つに類似点を探す事は至って自然な事だろう。

 しかし、プルシェンコのストーリーの最終章はまだ書かれていない。

 スポーツの法則によると31歳の彼はすでに年老いているが、今、人生最大の試練に向かっているかもしれない。失敗した場合彼は、素晴らしいが偉大ではない、というありふれた過去のチャンピオンになる。

 成功した場合、殿堂入りとなる。

Other stories about Sochi you may like